2016年03月

健康な人を本当の意味で増やすためには

ポピュレーション・ストラテジー
本日の日経新聞「医出づる国」の内容はポピュレーション・アプローチの話であった。長野県松本市では「市民歩こう運動」を進めている。記事によると市長の菅谷昭さんは医師でもあり、市長のもとでウォーキングマップの作製、健診受診を呼び掛ける推進委員会の結成、糖尿病の重症化予防のためにかかりつけ医や薬剤師との連携を促進、健康関連産業の育成、保健師などによる企業での健康講座の実施などの健康施策を積極的に行っている。記事の後半では久山町での健診結果に基づく保健指導の記載もある。前者の松本市の試みのように健康対策を全ての住民にアプローチする手法をポピュレーション・アプローチ、一方後者の久山町の例のようにリスクの高い人に重点的に関わる手法をハイリスク・アプローチと呼ぶ。別の紙面にはQ&Aとしてこの2つのアプローチの違いを説明して、実際には多くの国々がハイリスクアプローチに力を入れているがポピュレーション・アプローチも重要であると記載してある。ただポピュレーション・アプローチでは費用対効果の検証が大事だとも述べている。 私事ではあるが、緑市民病院在職中に、「みどりシティーフェスティバル」という、毎年秋に大高緑地公園で行われている区民のお祭りに病院として参加出来るように働いていた。昨年はそのお祭りで予防医学の講演を行った。その講演の中では予防医学のパラドックスとして、小さなリスクを負った大多数の集団から発生する患者数が大きなリスクを抱えた少数のハイリスク集団からの患者数より多いことを説明した。さらに本日の記事と同じポピュレーション・アプローチ(ポピュレーション・ストラテジー)とハイリスク・アプローチ(ハイリスク・ストラテジー)の説明を行った。予防医学のパラドックスからハイリスク・ストラテジーも大事だがポピュレーション・ストラテジーがより重要である事を紐解いた。例え話として、脳卒中の発症リスクを下げるためには、ハイリスク・ストラテジーとしての高血圧症患者さんへの降圧薬処方など医学的アプローチも大事だが、誰にでも小さなリスクがあることを全ての人が意識して、減塩、禁煙や毎日できる運動などの啓蒙などで全員でそのリスクを減らし、健康水準を引き上げる努力をするポピュレーション・ストラテジーがより重要であることを講義した。 私は、相川みんなの診療所の開院後には、クリニックのすぐ北にある螺貝公園を中心に地域の健康増進のための運動をしていきたいと考えています。このことは一人で進めていく事は効果を望めないため、一緒に行動を共にしていただける方々の協力も仰いでいきたいと思っています。

電子タバコと禁煙

ネットを見ると禁煙の手段に電子タバコを進めているサイトが多々ある。電子タバコは専用の液体を加熱して蒸気を吸入するもので発がん物質であるタールを吸入しないので有害性が少ないと宣伝している場合もあるようだ。また、最近は電子タバコとは違うがiQOSという煙の出ないたばこをコンビニでもよく見かける様になった。
かなり以前から「すいたくなったら禁煙パイポ」なるパイプみたいな禁煙補助具がスーパーなどにあったが、実際に電子タバコが禁煙に役立つかどうかを調べた論文が、3月号のLancet Respiratory Medicine に載っている。禁煙補助としての電子タバコが有用かどうかを調べた文献をpubMEDなどで検索し、コントロール群の存在している20件のコホート、横断試験、または臨床試験をメタ解析してある。メタ解析では禁煙の手段に電子タバコを使用した場合に電子タバコを使用しないで禁煙した場合に比べて禁煙に成功した割合はむしろ28%少なく統計的にも有意であった(オッズ比0.72、95%CI;0.57-0.91))。また、電子タバコを使用する人と、禁煙に関心がる全ての喫煙者と比較したところ禁煙に関心がる電子タバコ使用者で禁煙の割合が増えているわけではなかった(全ての禁煙に関心がある喫煙者の喫煙継続オッズ比0.86,95%CI 0.60-1.23,禁煙に関心がある電子タバコの使用者の喫煙継続オッズ比0.63, 95%CI 0.45-0.86; p=0.94)。
たばこが止められないのはニコチン依存症の為である。根性や、根拠のないデバイスに頼るのではなく、薬剤師や医師と相談しながら自覚をもって禁煙に取り組んだ方がよいようである。またもっと大事なことはこれ以上新規の喫煙者を増やさないように啓蒙することだと私は考えます。

紫煙


E-cigarettes and smoking cessation in real-world and clinical settings: a systematic review and meta-analysis. Lancet Respir Med. 2016; doi:10.1016/S2213-2600(15)00521-4.

成人の急性気道感染症患者における抗菌薬の適正使用

Ann Intern Med 2016 Jan 19; [e-pub]. (http://dx.doi.org/10.7326/M15-1840)を元にNEJMに不必要な抗菌薬の使用防止を呼び掛けている。以下は南江堂のHPにある要約である。自分の憶えのためにコピーをしておいた。


成人の急性気道感染症患者における抗菌薬の適正使用
Appropriate Antibiotic Use in Adults with Acute Respiratory Tract Infections
2016 February 23
支援組織:American College of Physicians(ACP)、Centers for Disease Control and Prevention(CDC)
ターゲットとする集団:外来診療所で成人に診療を行うすべての臨床家
背景
年間1億回を超える成人の外来受診で抗菌薬が処方されているが、そのうち推定50%は不必要または不適切かもしれない。ACPとCDCが発表したこの文章は、成人の急性気道感染症における抗菌薬適正使用ガイドライン2001年版(NEJM JW Gen Med Apr 15 2001およびAnn Intern Med 2001; 134:479)の更新であり、気管支炎、咽頭炎、および鼻副鼻腔炎の管理についての助言が含まれている。今回の更新では、慢性肺疾患および免疫低下状態のない健康な成人に焦点が当てられている。
要点および推奨事項
合併症のない急性気管支炎
ウイルス性のものが90%を超える。咳嗽が6週間も続くことがあり、軽度の全身症状を伴うこともある。 膿性痰または痰の色の変化は細菌感染症を示すものではない。膿性は、炎症細胞または脱落した粘膜細胞の存在が原因で生じる。 患者は症状緩和(鎮咳薬、去痰薬など)により利益を得るかもしれない。 肺炎と鑑別されなければならない。頻脈、頻呼吸、38度を超える発熱、および胸部聴診異常がなければ、肺炎の可能性は低い。 肺炎の疑いがない限り、臨床家は検査を実施したり、抗菌薬の投与を開始したりすべきではない。
咽頭炎
咽頭炎は多くの場合ウイルス性である。咳嗽や鼻閉、結膜炎、口腔の潰瘍または水疱のある患者では、ウイルス性である可能性が高い。 Centor criteria(病歴での発熱、扁桃滲出物、圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹、咳嗽がない)で3点未満の患者は、A群連鎖球菌感染症である可能性は低く、さらに検査を行う必要はない。 経口抗菌薬(penicillin、amoxicillinなど)は、A群連鎖球菌感染症と確定された場合のみに処方する。
急性鼻副鼻腔炎
急性鼻副鼻腔炎(持続期間範囲1〜33日)の原因は通常、普通感冒に関連するウイルス感染により生じる。症状は鼻閉、膿性鼻汁、上顎歯痛、顔面痛、発熱、および耳痛を含む。 急性細菌性鼻副鼻腔炎がウイルス性上気道感染症(upper respiratory infection:URI)に続発することがある。しかし、ウイルス性URIが細菌性鼻副鼻腔炎を合併する割合は2%未満である。 ウイルス性副鼻腔炎と細菌性副鼻腔炎のX線像は類似しているため、画像診断は有用ではない。 抗菌薬は、症状が10日を超えて持続する患者、重症の患者(39度を超える発熱、膿性鼻汁、連続する3日を超える顔面痛)、または初期の改善後に悪化した患者に対してのみ用いるべきである。2012年版Infectious Diseases of Americaガイドラインは、抗菌薬が必要と考えられる場合には、amoxicillin-clavulanateの使用が望ましいと推奨している。

成人の急性気道感染症患者における抗菌薬の適正使用
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