2016年02月

プロトンポンプ阻害剤の使用と認知症

JAMA Neurology 2月15日号にプロトンポンプ阻害剤(PPI)の使用と認知症リスクを調べた前向きコホート研究の論文が乗っている。75歳以上の7万人以上の人を2004年から2011年まで調べたところPPIを常用していた人達(2950人、平均年齢83.8歳、女性77.9%)は使用していない人達(70729人、平均年齢83.0歳、女性73.6%)に比べて1.44倍(95%CI,1.36-1.52;P<0.001)認知症のリスクが高いとのことである。最近話題となったPPIとCKDとの関連も含めて、PPIの継続にはそれなりの根拠が必要となってきたようだ。

Association of Proton Pump Inhibitors With Risk of Dementia A Pharmacoepidemiological Claims Data Analysis


がんの終末期をどこでどのように過ごすか  (『おひとりさまの最後』への一つの答え)

米国医学会誌(JAMA)1月19日号の記事から。
米国での研究であるが、その論文では、肺がん、大腸がんで死亡されたMedicare(米国の高齢者向け国家社会保険)を受けている患者さんの家族に患者さんの終末期の過ごし方が良かったかどうかを(亡くなってからではなく)前向きに調査した結果を報告している。全体の51.3%の家族が素晴らしい(exellent)最後だったとするが、集中治療を選択するかどうか、最期をどこで過ごすかどうかによって若干の違いがあることを示した。具体的には、3日を超えるホスピスケアを受けた患者さんの家族では58.8% (352/599)が素晴らしいと答えたが(カッコ内は症例数、以下同様)、ホスピスケアを受けなかったか受けても3日以内であった患者さんの家族 では43.1% (236/547)と少なかった。亡くなる30日前に集中治療室に入った患者さんの家族では45.0% (68/151)で素晴らしかったとしたのに対して集中治療室に入らなかった患者さんの家族では52.3% (520/995)で素晴らしかったと、集中治療室を利用した患者さんの家族で満足度が低い結果であった。同じように病院で亡くなった患者さんの家族の42.2% (194/460)で素晴らしかったと回答したのに対して病院以外で亡くなった患者さんの家族では57.4% (394/686) で素晴らしかったと、病院で亡くなった患者さんの家族で低い結果であった。患者さんが希望された場所で亡くなったかどうかを家族に聞いたところ、ホスピスケアを受けなかったか受けても3日以内であった患者さんでは希望通りであったとするのが40.0% (152/380)であったのに対して、3日を超えるホスピスケアを受けた患者さんでは希望どおりが72.8% (287/394)であった。以上より最後は積極的な治療ではなく、できるだけ自宅またはそれに準じたところで亡くなる方が家族にとってもよく、患者さん自身もホスピスケアを望まれている人が多いとの報告であった。


上記論文の数値を計算し直すとアンケート対象となった高齢末期がん患者のうち59.9%(686/1146)もの人が病院以外で最期を迎えていることに驚いた。日米の医療事情、保険事情の違いがあるが、末期がんに罹患した場合、最後の時を自宅かそれに準じたところで緩和医療を受けながら家族とともに過ごすことが理想なのだろう。

糖尿病と人工甘味料

糖質は血糖値やインスリン分泌に影響し、その摂取の仕方が、肥満や糖尿病の発症・進展に結び付きます。生活習慣病の予防や管理のため、またはダイエットによいとのことで最近は糖質オフやカロリ―ゼロを謳う食品が巷に溢れています。皆様にとっても血糖管理には実際どうなのかは気になるところではないでしょうか。丁度、今月号の糖尿病学会誌に人工甘味料と糖代謝に関する総説が載っていたためまとめてみました。

人工甘味料の代表的なものとしてはアスパルテーム、アセスルファムカリウム(アセスルファムK)、スクラロースがあります。カロリーは1 グラム当たり、アスパルテームで砂糖と同じ4 kcal、アセスルファムK、スクラロースでは0 kcal で、甘味度は砂糖の数百倍ありますので、砂糖と比べて少量で甘味を実現できます。人工甘味料使用におけるアメリカ糖尿病学会とアメリカ心臓病学会の共同声明では、砂糖の代替甘味料として人工甘味料を使用することは、血糖上昇や摂取カロリーを抑制し、肥満・糖尿病の予防や治療に有用な可能性がありますが、その糖代謝に及ぼす影響についてはまだ十分わかっていないとしています。ただ最近、人工甘味料は血糖上昇を介さずに糖代謝に影響を与えるのではないかと言われだしてきています。
 
1.人工甘味料の血糖値への影響
健常人にブドウ糖、果糖、または3種類の人工甘味料(アスパルテーム、アセスルファム
K、スクラロース)のいずれかを投与して糖代謝を観察したSteinert らの研究では、人工甘味料の投与では、血糖値、インスリン値、インクレチンの一つであるGLP-1 値に変化は認めませんでした。
 
2.習慣的な人工甘味料の利用が糖尿病発症に及ぼす影響
直接の血糖への作用は認められないものの、人工甘味料と糖尿病との関連を検討した疫学研究の結果を見ると、必ずしも人工甘味料が糖尿病発症に予防的に働くとは限らないことが分かっています。人工甘味料の主要な摂取源であるダイエット清涼飲料水と糖尿病発症との関連を検討した疫学研究では、ダイエット清涼飲料水の摂取量が肥満と独立して新規糖尿病発症と関連を認めた、という報告と、肥満で調整すると関連はなかった、という報告とがあり、結果は一様ではありません。しかし、人工甘味料が直接血糖値やインスリンの反応に影響をあたえないことが負荷試験で示される一方で、疫学研究では人工甘味料が糖尿病発症を増やす可能性が否定できない報告はしばしばあり、この結果の乖離の理由として、習慣的な人工甘味料の利用が、直接の血糖・インスリンへの作用以外の機序で糖代謝に影響を与えている可能性が考えられています。
 
3.人工甘味料が糖代謝に影響を与える可能性
1)人工甘味料による腸内細菌叢への影響
腸内細菌叢は、近年さまざまな生活習慣病と関連することが報告されてきています。最近人工甘味料が腸内細菌叢に変化をもたらし耐糖能障害をもたらす可能性が報告されました。人工甘味料のひとつサッカリン(5 %サッカリン、95 %ブドウ糖)を投与されたマウスではブドウ糖を投与されたマウスとは異なった腸内細菌叢の分布を示し糖負荷試験で耐糖能異常を認めました。この反応は抗生剤投与で改善すること、サッカリン投与マウスの腸内細菌叢やサッカリン存在下に培養された腸内細菌を無菌マウスへ移植することにより耐糖能障害を引き起こすこと、ヒトにおいてもサッカリン投与により耐糖能異常を認めたレスポンダーでは投与前後で腸内細菌叢の変化を認め、投与後の腸内細菌叢をマウスに移植することで耐糖能異常を引き起こすこと、などの理由から、サッカリンの耐糖能障害の機序として腸内細菌叢の変化が考えられました。この研究ではサッカリンが用いられましたが、他の人工甘味料でも同様の変化が起こるかは不明です。
2)腸管での甘味感知によるインクレチン分泌、糖の吸収への影響
人工甘味料に血糖上昇効果がなくても耐糖能異常を引き起こす機序のもう一つの可能性として味覚への影響が考えられています。本来、われわれの日常生活の中では甘味の感覚に続いて血糖が上昇することが条件付けされていますが、人工甘味料では甘味のあとに血糖上昇が起こらないため、エネルギーの恒常性が崩れ、摂食行動などに影響を与え、むしろ太りやすくなる可能性が報告されています。人工甘味料の強い甘味に対する慣れが、甘味に対する感覚鈍麻をもたらし、より甘味に関連した糖質を多く摂取する可能性もあります。また、本来は舌の味蕾に存在する味覚細胞が腸管にも存在することがわかり、腸管での甘味の感知がインクレチン分泌をもたらしたり、腸管でのナトリウム・グルコース共輸送体(SGLT1)などの発現を介して腸管でのブドウ糖輸送に影響を与えたりすることで、糖代謝に影響を与える可能性が示唆されています。
 
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梶野の考え
もともと味覚は生物が生きていくために必要な栄養素をとるために備わった感覚です。砂糖なども含めた天然、人工の甘味料は脳内のβエンドルフィン受容体を刺激します。これは麻薬中毒者が求めている刺激と同じです。安易な甘味料の使用は依存症に陥り、生きていくために必要な食事量を超えた食べ物、飲み物を求めてしまうことにつながります。また、人工甘味料の摂取とは、本来生物が生きていくのに不要な化学物質を口にすることです。健康な毎日を続けるためにも“ハニートラップ”には気を付けたいものです(^_-)-☆
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